連載 ケアフルな一冊『妖怪百物語・続妖怪百物語』
底抜け柄杓で水を汲む?
坂田 三允
1
1群馬県立精神医療センター看護部
pp.88
発行日 2002年1月15日
Published Date 2002/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900700
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今,自分の置かれた環境に不満があるわけではない。若い頃のように輝く明日を夢見ることこそできないけれど,そのかわりに平穏無事な毎日が過ぎていく。そこそこに幸せな日々。だが,平穏な日々は中途半端だ。だから,私は途方もない裏の顔を平凡な表の顔で包み込み涼しい顔で市井に溶け込んでいる人々の物語を憧れをもって読む。
かの有名な「強くなければ生きてはいけない。優しくなければ生きていく資格がない」という飲んだくれ探偵フィリップ・マーロウの科白を持ち出すまでもなく,彼らは無口で,冷静で,頭がよくて,鋭い勘をもち,強くて,ストイックでありながら,優しくて,特殊な技能があり,おまけにいつ「死」に出会っても不思議ではない世界で淡々と生きていく。完璧だ。
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