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困り果てた病棟
先日、ある病棟の看護師長から、離院の可能性が高い患者さんを精神科病棟で引き受けてくれないか、という依頼を受けました。その患者さんは痴呆状態の50代女性。ある夜、意識消失発作を起こして行き倒れになり、救急車で運ばれてきたのです。検査の結果はCTで脳がスカスカとわかったものの、治療の必要はなし。身元がわかっても、身寄りもなく、「野に放つわけにもいかない」ゆえの社会的入院が続いていました。
体力が回復すると、彼女は歩き回り、目が離せない状態になりました。忙しい病棟では彼女を十分みる余裕はありません。姿が見えなくなるたび、院内を大捜索する事態が頻発。病棟も困り果てたのでしょう。自動ドアに施錠している精神科病棟でなら、離院の可能性が低いと考え依頼が出たようです。
「うちの科でも、治療できる人ではないんだけど、科はうちのままでいいのよ。ただ、できれば病棟だけ移させてもらえないかと思って……。精神科疾患だった可能性もあるって先生も言っているの。すごくやせているから、摂食障害かもしれないし、運ばれて来たときバッグにお酒の小瓶が入っていたから、アルコール依存かもしれない。検査所見と今の症状が全然合わないから、精神科疾患の経歴もありそうなんだけど、高次脳機能障害の状態で本人とまったくコミュニケーションできないから、聴取できないのよ」
申し訳なさそうに頼みながらも、どことなく「本来はうちの科でなく、精神科かもしれないんだけど……」という雰囲気を醸し出します。私は聞きながら、本音では、ちょっとそれは無理なこじつけではないかなあ、と思いました。でも、私が彼女の立場だったら……。たぶん同じように依頼をし、自分の科で彼女を引き受ける理不尽さをほのめかすだろうなぁ、と思いました。
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