連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第48回
延長ジェスチャー
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.590-591
発行日 2015年7月15日
Published Date 2015/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688200238
- 有料閲覧
- 文献概要
介護施設のカンファレンスで、ベッドのマットの話題になった。話の途中で、職員のタナカさんがふと「キクさんも……」といって、キクさんの個室のほうを指して言い淀む。タナカさんはベテランだが、この施設ではまだ働き始めたばかりで、ときどきカンファレンスのやりとりを確認したくなるようだ。「キクさんも……エアマットかいな?」「うん、エアマット」。副施設長さんが、うなずくと、個室を指していたタナカさんの手はさっと降ろされる。
しばらくして、入居者の皆さんの起床時間がばらばらで、食事の準備がたいへんだという話題になる。副施設長さんが言う。「順番に起きて来はるとええんやけどな、ぽつん、ぽつんと来はるからな」。すると、タナカさんがちょっと考えて「ほんで、ごはん?」。タナカさんは、副施設長さんの「ぽつん、ぽつん」という言葉のリズムに合わせるように、左手を2度、ごはんを差し出すように前に出して止める。そのジェスチャーに、副施設長さんが「うん」と応じると、タナカさんの手はすいと元に戻る。
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.