連載 一器多用・第42回
パクリとオマージュの間で
岡田 慎一郎
pp.912-913
発行日 2014年11月15日
Published Date 2014/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688200038
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今から30年ほど前のこと。父が、私も妹も大好きだったジュースを買ってきてくれました。「いつもよりすごく安かったから、1ダース買ってきたよ」と得意満面。兄妹そろって大喜びし、「お父ちゃん、ありがとう!」とレジ袋を開けたところ、似ているけれど何かが違うのです。コピー商品といえばまだ聞こえがよいのですが、要はいわゆる“パクリ商品”を買ってきてしまったのです。私たちのテンションは一気に下がり、母にも「まったく騙されやすいんだから……」と言われて、父は無言のまま部屋を出ていってしまいました。私たちを喜ばせようとしてくれたのですから今思えばありがたいのですが、当時は幼心に「偽物はイヤだ!」と駄々をこねてしまいました。自分も子をもつ身となって父の気持ちを思うと、心のなかで「あのときはごめんなさい」とつぶやいています。
こうした“パクリ問題”は、今も止まないばかりか、ますますエスカレート。商品やキャラクターなどにとどまらず、海外ではディズニーランドの劣化コピーのような遊園地が話題になりました。これはお笑いネタにされるほどの出来の悪さでしたが、なかには笑えないレベルのものも。iPhoneでお馴染みのApple社公式ストアが、店員の制服から内外装のデザインなどまで誰もがそれと見まごうほどのクオリティで完璧にコピーされた話は記憶に新しいところ。STAP細胞問題でクローズアップされた“コピペ”もその一種と言えましょう。インターネット社会になって、われわれにも他人事ではありません。
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