連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第23回
百ます計算が始まるまで
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.492-493
発行日 2013年6月15日
Published Date 2013/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102527
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夕方の入浴前のひととき。入居者のみなさんが交替でお風呂に入る間、順番を待っているマエバシさんはちょっと所在なさそうにまわりを見ている。職員のカミヤさんが、すかさず百ます計算を持ってくる。電報局に勤めていたマエバシさんは細かい作業や計算が得意で、百ます計算はマエバシさんが休憩中にいつも熱心にやっている気晴らしだ。
私たちは普段、グループホームでは観察者に徹することにしているのだけれど、ときどき、やりとりのなかにおじゃますることがある。この日も職員のカミヤさんはちょっと気をきかせて、離れた席で観察していた大学院生のジョウさんに、百ます計算を示しながら「どっちが速くできるか」と声をかけた。ジョウさんは、あ、と気づいて、さりげなくマエバシさんの隣の席に移る。
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