連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第11回
三角折りの夕べ
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.526-527
発行日 2012年6月15日
Published Date 2012/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102225
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イクタさんは、私の通っている高齢者向けグループホームに最近来られた。他の利用者の方とは、ちょっと様子が違っている。レクリエーションの時間にみんなで体操をするとき、他の人のように体を動かさずに、じいっと正面を向いている。表情もほとんど変化しない。職員さんが「イクタさんも、はい」とうながしても、やっぱり両手を膝の上に置いたままだ。
体が思うようにならないのか、というとそうでもない。体操の最中に、職員さんのひとりがイクタさんのうしろを通って引き戸を開け閉めする。すると、イクタさんがふと振り返って立ち上がる。ほんのわずかな引き戸のずれがあるのを、ぴしりと直す。几帳面な性格なのかもしれない。そういえば、イクタさんは体を動かさないときも、背筋はぴんと伸びている。いつも暗めの色の服を着ていて目立たないけれど、よく見るとしっかりした生地で、布地のラインがくっきりしている。
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