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はじめに
今回私に与えられたテーマは,「胃ろうによってQOLは改善するのだろうか」というものです。
結論を先走って申し上げれば,私は,少なくとも今の日本で造られている胃ろうに関して言えば,多くの場合QOLは改善していないのではないか,と危惧している立場です。すなわち,一般論としての「胃ろうによってQOLが改善するか」という問いにはあまり意味がなく,当然のことですが,他の医療技術と同様,改善する例もあるし改善しない例もあるだろうと思われる。しかし,日本の現状をみると,改善していない例のほうが多いのではないかと考えている,ということです。
私は,自分の経験として以前からそうした印象を抱いていましたが,2007年に『日経メディカル』(11月12日版)に掲載されたある記事を見て,その自分の印象に間違いはなかったことを確認できました。それは,上牧温泉病院(群馬県みなかみ町)内科の丸山秀樹医師が,ご自分の病院に入院している胃ろうを造られた患者さんについて報告した次のような記事でした。
「(胃ろう造設患者の)自立度の状態を見ると,胃ろう造設時に自力で寝返りも打てなかった患者は83.6%。意思疎通の程度を見ると,意思決定・伝達能力がなかったのは74.5%。その両方に該当する患者は半数近くだった。また,胃ろう造設の受け入れについて本人の意思を確認できていたのは55人中たった1人だった。」
この記事の内容は,私の働く病院やその周辺の施設,在宅で見る胃ろうの現状をそのまま映したものでした。……胃ろうを造設する方,あるいはすでに造設した方,そのほとんどの方が,意思疎通が不可能で,自力で寝返りも打てない状態で,主として家族の判断で胃ろうを造設することになった方ばかり,それが,私の周辺の状況でした。
もう一つ,私の参加したある調査研究の資料からの抜粋をお示しします。この調査研究は,いわゆる「療養病棟」という,慢性期,長期に入院をするための病棟に,どんな患者さんが入院していて,どういうケアを受けているか,ということについての調査です。
表1に,日本の18の病院の療養病棟に入院している経管栄養の患者さんの割合について調査した結果と,アメリカの平均とを並べて提示しています。お示ししたのは,「経管栄養」についての項目だけですが,日米間の開きは圧倒的です。
すなわち,日本では,療養病棟に入院している患者さんのうち,経管栄養を行なっている方が45.75%! 実に半数近い方が,経管栄養を行なっている。それに比べてアメリカでは6.8%に過ぎません。日本では,療養病棟に入院しているようなADLの低下した高齢者に経管栄養を行なっている例が,外国に比べて多い,ということの一端がおわかりいただけるでしょう。
もちろん,こうした状況は,私の住む土地や,丸山医師の群馬県みなかみ町のような,高齢者率の高い地域のことで,都会ではかなり様相が異なるのかもしれません。しかし,あえて私は,自分の身の回りの経験を踏まえて,「平均寿命を越えている高齢者・超高齢者で,全身状態が低下していて,意思疎通も十分できなかったり,ADLも低く寝たきりであったり,という状態の方」に胃ろうを造ることが,その方のQOLを改善するのか?という問題設定をしたいと思います。
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