連載 精神科医の家族論・4
母親と娘―佐野洋子さんの場合
服部 祥子
pp.598-601
発行日 2009年7月15日
Published Date 2009/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101379
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母さんと私の話 ~シズコさん(母)と洋子さん(娘)の人生行路
『シズコさん』(2008年,新潮社)は絵本作家でエッセイストの佐野洋子さんが綴った母と娘,そして家族の物語である。文中の家族はすべて実名で書かれていると思われるので,これほど正確で信頼性の高い事例研究はないと精神科医の食指が動き,失礼を顧みず,母親と娘の関係性にスポットを当てて私見を述べたいと思う。
シズコさんは恋愛結婚により自らが選んだ東大出の夫とともに戦争中満州に渡り,終戦を迎えた。その時彼女は31歳で,5人の子どもの母であった(男4人,女1人。そのうち1人は生後1か月で死亡。洋子さんは第2子で長女)。終戦後2年目に引き揚げ船で帰国。帰国後3か月で第4子の三男を,その翌年に第1子の長男を病気で亡くし,後に生まれた2人の女児を合わせて4人の子どもを連れて,高校教師になった夫とともに静岡で戦後の厳しい生活を生きた。夫は50歳で死亡。そのときシズコさんは42歳,19歳の洋子さんを頭に7歳の末子まで4人の子どもが残された。
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