連載 自宅で死んでみませんか・8
大変だった方 その二
皆川 夏樹
pp.434-437
発行日 2009年5月15日
Published Date 2009/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101337
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大変だった方 その二
金田Tさん(女性),享年九〇歳
金田Tさんは、私が前任者から引き継いで訪問診療を始めた時点では、全く会話もできず、目は開けているものの視線も合わず、両足は交差したままこわばって、手も縮こまって動かず、申し訳ない言い方ですが、ベッドの上でただ息をしているだけ、という風に見えました。右胸には、IVHという栄養を入れるための点滴が常時刺さりっぱなしになっており、鼻からは在宅酸素を流し続け、尿をとるカテーテルの管も入っており、口からの食事や飲水は一切なし、という状態でした。
はじめて私がお宅に伺ったのは、一一月一七日、バイパスから少し山を上がった、畑が広がる地域に何件か並んだ住宅のうちの新しい一軒がTさんのお宅でした。周辺は皆「金田さん」で、本家分家が集まっていて、Tさんは、娘さん、そのまた娘さん、ひ孫たちと同居しておられる、女系の一家だそうです。
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