連載 自宅で死んでみませんか・9
大変だった方 その三
皆川 夏樹
pp.522-527
発行日 2009年6月15日
Published Date 2009/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101359
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大変だった方 その三
郷田Tさん(男性)、享年八七歳
郷田Tさんは、一〇〇段近い石段を昇った上のご自宅に奥様と二人で住んでおられました。我々にとっても、何度も何度も重い処置道具を下げて、雨の日も晴れの日も石段を息を切らして昇り降りしたきつい思い出と直結した、印象の深い患者さんでした。それでも私はまだ、年齢よりは少しは若い肉体年齢を自負はしており、この石段も比較的ひょいひょいと登ったものですが、訪問看護師のチーフなどは、一休みも二休みもしないと行き着けない、極楽浄土のようなお宅でした。そして、Tさんにとっても、極楽浄土の家だったのだ、と、そう思います。
依頼があったのは、入院先の病院からでした。六月二〇日に心不全のため入院、加療にて安定し退院することになったが、動けなくなってしまったので、訪問診療を依頼、と。ごく簡単な、循環器科からの紹介状で、お盆前には退院したい、という、ご家族と病院との切迫した要求の中、八月四日に病院に伺った上、八月九日に退院となりました。
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