連載 ほんとの出会い・37
人は誰も物語をもっている
岡田 真紀
pp.338
発行日 2009年4月15日
Published Date 2009/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101313
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自分が少女だった頃のことを,まるで他人のように振り返ったとき,どんな思い出が浮かび上がるだろうか。中学生のころ,ちょっと憧れていた日焼けした肌の不良っぽい男の子。女友達がおせっかいにも私の気持ちを伝え,突然ある日曜日彼がわが家にやってきて,「付き合ってください」という紙を渡されたけれど,なぜかその途端にうれしいというよりも,うっとうしい気持ちになってしまったこと。その当時,玄関はドアなどではなく,木の桟が組まれたガラス格子の引き戸。あの頃はチャイムなどなかった。「ごめんください」と大きな声を出して呼んだのだろうか。私の記憶には,その引き戸を開けた玄関で,お互いにぎごちなく気恥ずかしい思いをしながら目を見合わせていたことだけが思い出される。
この時はじめて,自分の心が予想のつかない動きをすることに気づいた。
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