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はじめに
在宅で療養する高齢者のなかには,脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患,脳の神経変性疾患で意識障害のある人たちが多くいらっしゃいます。口腔にたまったたんを飲み込むことも吐き出すこともできないため,こうした人たちにとって,介護者が行なう「たんの吸引」はなくてはならない大切な行為です。
法的には医療行為とされていても,在宅介護を進めていく上で,「たんの吸引」についての知識や技術は欠かすことができません。誰もが安全にたんの吸引ができるようになることは,より安全な社会をつくるためにとても必要なことと考えます。
「たんの吸引」は医療行為であるため,医療有資格者(医師,看護師,保健師など)と家族の者以外が行なってはいけないこととなっていました。しかし,厚生労働省は,2005(平成17)年3月24日にALS(筋萎縮性側索硬化症)以外の「たんの吸引」が必要な在宅療養者や重度障害者に対しても,介護職(ヘルパー)やボランティアなど家族以外の第三者による吸引行為を一定の条件下で認めるという通知を出しました(医政発第0324006号)(ALS患者の「たんの吸引」については2003(平成15年)に通知が出されています)。これは在宅介護する家族の負担を早急に軽くしなければならないという大きな事情があったからです。
「一定の条件」の内容を要約すると,1)主治医や看護師による吸引方法の指導をうける,2)患者または家族から文書による同意をもらう,3)主治医等は吸引が適正に行なわれているかを定期的に確認する,こととなっています。
「たんの吸引」を必要とする療養者は,気管切開をしている人,人工呼吸器装着中の人,意識障害のある人,嚥下ができない人,咳ができない人など,いろいろな状態にあります。原因疾患は,神経・筋疾患(難聴),ALS(筋萎縮性側索硬化症),脳血管疾患,遷延性意識障害などです。
ここ数年の間に,人の集まる駅や学校にAED(自動体外式除細動器)が普及しつつあります。AEDの使用法については市民を対象とした研修会が各地で開催され,多くの人たちが使用できるようになってきました。AEDが設置されていたために助けられた生命の報道もされています。このAEDのように,たんの吸引器を市民が使いこなすことができて,安全に「たんの吸引」が行なえるようになれば,安心して生活できる高齢社会の実現に近づくと考えます。
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