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はじめに
介護保険制度が始まる以前,私は在宅介護支援センターの看護師として,管轄地域の高齢者の在宅サービスをコーディネートしていました。
1990年代の在宅サービスは,事業所の数が限られ,デイサービス,訪問入浴,訪問介護が数えるほどしかなく,在宅で医療器具を装着されている方は,ほとんど受けてもらえない状況でした。そこでコーディネートの役割を担うべく,サービスを提供する職員に経管栄養や在宅酸素機器の管理方法を指導し,医療器具が手離せない利用者にも必要なサービスが届けられるように支援してきました。
2000年4月に介護保険制度が始まってからは,ケアマネジャーとしても活動を始めました。制度がスタートした当初,利用者にとって,ケアマネジャーは「生活の質を上げる人」ではなく,「在宅サービスの注文屋さん」という印象でした。利用者とゆっくり話す時間はなく,アセスメントをして問題点を抽出しても家族の思いが先に立って,デイサービスやショートステイを利用するための計画になりがちでした。
社会の中で介護保険制度の存在が徐々に浸透してくると,ケアマネジャーの仕事も理解されるようになり,そうなると利用者からは,「もっと訪問してほしい」「もっと良いサービス事業所がないか探してほしい」「(利用している事業所に)苦情を伝えてもらえないだろうか」など,サービス提供側への要望が増えていき,権利を主張するものに変わっていきました。
ケアマネジメントは,利用者本位に,その人がその人らしく地域で暮らせるように援助していくことであり,その人のQOLを高めるために問題点をアセスメントし,かかわりを評価していくことだと考えています。看護師のケアマネジャーなら医療的なこと,介護職なら訪問介護など介護系のサービスを組み立てやすいといったように,それぞれの専門とする分野による得意不得意はあっても,利用者にとって今一番大事なことは何なのかを中心に考えていく必要があります。
たとえば,自宅で入浴させることがむずかしいことから利用者や家族の一番の希望が「入浴サービス」である場合,入浴は高齢者にとっては最も危険な行為であり,身体に及ぼす影響を考えてマネジメントをしないと体調を崩す結果となります。すぐデイサービスや訪問入浴を組み立てるのではなく,主治医の意見書やサービス担当者会議を活用して共通の認識をもって接していく必要があります。
ケアマネジャーとしての6年間,私は主に末期癌や人工呼吸器を装着しているなど医療依存度の高い方をケアマネジメントしてきました。しかし,中重度介護者を訪問看護と訪問診療のみで支えることはむずかしく,他の介護サービスを利用して介護者も同時に支えていくことを考慮しないと在宅介護を継続することはできません。高齢者が高齢者の介護を担うケースは多くあり,介護による疲労の積み重ねから介護者も病気になって,介護を交代できる家族もいないために施設入所となるケースは何例も経験しました。
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