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はじめに
わが国においても,筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者は毎年数多く新規に発生している。おそらくはゲノムレベルのエラーが原因になって発症してくるこの疾患は,これからも毎年一定の割合であらゆる地域に発生してくるだろう。
たとえば結核などの感染症は,貧困や劣悪な衛生状態などの環境により集積するが,この疾患はそうではない。したがって,経済的状態にかかわらず,富裕層から貧困層まで,その階層を構成する人口の約10万分の1の割合で毎年新規に発生してくる,ある意味で大変公平な疾患といえる。
かつて,ALSの在宅医療は,金持ち相手の特殊な医療と,一部の方面から批判されたことがある。たしかに経済的に恵まれている層のほうが,在宅での療養や家族による介護に有利ではあるが,実際に多くの在宅で療養するALSの患者に関わって,この差は絶対的なものではないと感じる。それほどにALSの在宅介護は過酷であり,社会的支援を十分に投入しないと維持できない。支援のネットワークの質と量が問われることになるのだ。
大分協和病院でALS患者の医療・看護にかかわる私たちの目標は,「富裕層から生活保護世帯まで」である。いかなる層であれ,在宅を希望するALS患者と家族がいたら,それを実現させることを目標とする。そしてそれは現在の大分市において一応実現できている。これは無論私一人の力などではなく,多くの訪問看護ステーション,訪問介護ステーション,身障施設,老人介護施設などの日々の実践と,行政職や福祉職の方々の有形無形の協力の上に成立したものだ。そして患者の日々の生活を支える要は,訪問看護師と訪問介護員である。
在宅ALS患者の日常の状態を把握し,その生活を維持し,問題があったら即座に対応してくれる,そういう現場の有能な戦力があるおかげで,大分市では20数名の在宅人工呼吸管理(HMV)が継続できているのである。
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