焦点 痴呆性老人の看護に関する研究
序言
痴呆患者の自立
中島 紀恵子
1
1北海道医療大学看護福祉学部
pp.174
発行日 1996年6月15日
Published Date 1996/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681900341
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心身ともに自立した「活動的平均余命」を生命表法により算出することで「生命の質」の指標を開発しようという研究が進められている。東北大学公衆衛生学教室が行なった「痴呆のない平均余命」の算出によれば,日本人は諸外国に比べ,全平均余命も痴呆のない平均余命も長い。しかし,全生存期間に占める痴呆のない生存の割合はむしろ低い方であり,痴呆のある生存期間は諸外国よりも長い傾向にあるという。
活動的生存に注目し「生命の質」を明らかにしようという,このような研究成果は,高齢期におけるヘルスプロモーションアプローチに大いに貢献するだろうことを疑うものではない。しかし,もしも研究者や実践者の心底に「痴呆になってまで生きたくない」などの考え方や感じ方があるなら,痴呆を患って生きることにおいて痴呆患者が自立的であることを含めての「生命の質」は見落とされ,諸々の予防活動はどこかで,醜いものへの拒絶,排斥にドッキングする可能性がありはしまいかと恐れる。尊厳死に関する協会の規約にも「ぼけ」の一言が入っている。ぼけを病めば,人間としての尊厳などはもうないと考えているらしい。看護の学会発表や論文の中にも,この種の価値を出発点にしているものが散見される。
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