特集 よい論文とは? おもしろい論文とは?
素朴な疑問への答えを探し続けること
心光 世津子
1
1武庫川女子大学看護学部
pp.480-482
発行日 2016年10月15日
Published Date 2016/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201295
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
研究のきっかけとこだわり
私が研究に関わり始めたのは,何かを志して,とか,何かのノルマがあって,とかいうわけでなく,自分の素朴な好奇心に勝てなかったからだ。学部生の頃に,「アル中は病院では治らん」とお酒をやめている断酒会会員から聞いた。はじめからお酒をやめようとした人は皆無で,みんな,病院にはたくさん「お世話に」なっていたが,「病院では治らん」と言っている……。自分の中で何かが揺らぐ感じがして,卒業論文のテーマにさせていただいた。当時,質的研究をしている看護学研究者はまだきわめて少なかったが,幸運にも指導をしてくださる教員(おそらく当時の所属学科で唯一だったと思う)に出会えて,参与観察とインタビュー調査を体験することができた。
フィールドに出るまでは,「アルコール依存症者がお酒をやめる方向へと転換できるように“看護がすること”は何か」とばかり考えていた。だが,フィールドで話を聴くうちに,自分の浅はかさに直面した。依存症当事者の視点から見ると,看護師は数多くの登場人物の中のごく一部でしかない。医療者に「否認」(アルコール問題を認めない)と呼ばれている状態も,人によっては違う意味をもっており,断酒を継続していく上で大切な意味をもっていたりした。その中で「看護の出番」探しをしているかのように思えてきて,看護のあり方を探る前に,まずは当事者の視点や,そこで起きていることそのものを捉えたいと思うようになった。フィールドワークを通じた自分のスタンスの変化は,その後の看護や研究を貫く軸になった。
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.