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はじめに
筆者は,2000(平成12)年から人工股関節全置換術(total hip arthroprasty ; THA)を受ける患者のQOLに資することを目的として,研究を進めてきた。得られた1つひとつのデータを集約し,THA前後の患者への教育・支援に臨床応用できるよう具現化して可視化すること,つまり,具体的な看護実践の方策につなげることが,最終的なゴールである。
研究では,主にTHA前後の患者の日常的な生活場面の観察に焦点を当ててきた。そのなかでも特に注目したのは,対象者の生活動作と居住環境との関係性である。その理由は,THA後には生涯にわたって予防が必要とされている人工関節の脱臼や再置換といった問題が,患者1人ひとりの日常的な動作や姿勢と密接な関係性をもつからである。
筆者らが行なった健常者の日常的な生活姿勢のパイロットスタディでは,抽出された姿勢862種類の約6割が,股関節の「90度以上の過屈曲や内転・内旋」を伴うTHA後の脱臼を誘発する姿勢に該当した(佐藤・川口,2002)。これらは,床・畳に直接座る,あるいは直接モノを置くといった,日本人がもつ習慣や住文化様式に深く起因するものであるといえる。このように,THA後患者は,生体にとっては異物である人工物とうまく付き合い,その機能を最大限に活用しながら生活を営む必要があり,われわれはそのサポーターとしての役割を担うことになる。
本稿では,筆者のこれまでの10年間の研究を通して,THAを受ける患者の看護的課題を概観するとともに,得られた知見を先端的取り組みにどのように活かし,どのような形で看護実践に役立てることが可能かについて考えてみたい。特に,個々の患者の認識に働きかける教育・支援と周囲の環境整備の観点から,それぞれに必要な要素を抽出し,「information and communications technology ; ICT」というキーワードで,その具体化のための作業を整理したい。
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