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はじめに
かつてわが国では,子どもの痛みは取り扱われることが少なく,半ば軽視されていたといってもよい。しかし,1986(昭和61)年にWHO(世界保健機関)から『がんの痛みからの解放』が出版され,子どもにも“痛み”は存在し,ケアされるべきであるという指針が示された。それから20年あまりが経過した。
痛みとは,「急性あるいは潜在性の組織損傷に伴う,あるいは,そのような損傷と関連して述べられる不快な感覚と情緒的経験である」と定義されている(Merskey, 1986)。痛みは,身体的には生体に引き起こされた知覚であるということができるが,情緒的経験を伴う痛みは,同時に人のこころ・心理的状態に大きな影響を与えるということができる。そして,痛みをコントロールしマネジメントしていくためには,「痛み自体は主観的なものであり,治療されるにはそのことが伝わらなければならない。痛みは触診することもできないし,測ることもできない。信頼と共通の言語が効果的なコミュニケーションには必要である」(Shapiro, Cohen, & Howe, 1993)ことから,私たち医療者は,子どもの身体状況・心理状況そして社会的状況をアセスメントし,痛みを捉えていく必要がある。
入院生活を強いられる子どもの多くは,入院することでの環境の変化や家族からの分離,また社会からの分離,そして検査や治療によって多くの身体的・心理的・社会的痛みを受ける。そのなかで,筑波大学附属病院(以下,当院)では,小児がんの子どもが多く入院生活を送っており,化学療法を随時受ける子どもや,がん性疼痛により緩和ケアの必要な子どもが存在する。以前は,子どもに痛みがあるということがわかっていても,入院生活の寂しさの痛みとして捉えられたり,気を引くための痛みの訴えと捉えられていた。
しかし少しずつ,子どもにも“痛み”があるのだということが認識されはじめたものの,子どもの痛みにどのように耳を傾けられるのか,痛みをどうキャッチし,判断していくのかという方法を,筆者らは模索していた。
本稿では,子どもが痛みに対して主体的に取り組めるよう,また痛みをもつ子どもや家族に接するなかで,痛みに対する認識をもちながら,子どものもつ痛みへの主観的感覚の理解とその痛みに対して,子ども・家族とともに医療者がともに立ち向かえるよう,痛みへのケアに取り組む医療者の変化を中心に述べる。以下に,その研究のプロセスと結果を報告する。
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