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はじめに代えて:パンデミックとジェンダー
Sexual and Reproductive Health(以下,SRH)サービス提供者は,単にヘルスケアサービスを遂行するのではない。「一個人として」,ジェンダー問題,保健医療体制を定める法の歴史,政策や文化・慣習に潜む課題についてどう考えるのかを問われながら,相談者のSRH and Rights(SRHR),すなわち「権利」と対峙している。
私たちはCOVID-19のパンデミックを経験した。世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言後すぐに,アジア女性センターの本山らはジェンダー視点でパンデミックを分析し,4つの危機を指摘した。①ステイホーム策による家庭内暴力からの逃げ場の喪失,オンライン中心の生活から犯罪に巻き込まれるリスクの増加,②ステイホーム政策により,女性のケア負担の増大,失業等による心理的ストレス,③医療・介護従事者の7割が女性を占め,女性の感染リスクが高まること,そして④ジェンダーだけでなく,国籍,年齢,健康状態や障害の有無,移民,セクシュアリティ等,多方面の格差が生じるインターセクショナルでグローバルな視点が必要であり,国際的な協調行動が一層求められると提言した1)。
SRHサービスは,パンデミックや疾病の大流行,自然災害や紛争等の有事において著しく阻害される。妊産婦向けの保健医療サービスや不妊治療の一時中断,生理用品の入手困難,そして人工妊娠中絶(以下,中絶)においても一時的に制限されていた国があった。
そんななか,国際産婦人科連合(FIGO)は,遠隔医療による薬物を用いた中絶の研究を行い,超音波検査を行わなくても有効性,安全性,効率性,受容性の高いサービスを提供できることを実証した。そして,遠隔医療による中絶は,女性と女子のアクセスを改善し,ケアに対する障壁を減らし,また効果的で安全,安価で満足できるものだったと報告した2)。まさに危機の中で危機前を超える社会を実現していく大きな一歩であった。
日本でも,パンデミックの間に多くのSRHRのロビー活動が行われ,2023年に経口中絶薬が承認された。今こそ,日本の助産師もSRHRのサービスの担い手の一員として中絶を取り上げ,過去から未来へとつながる議論をしてほしいと考え,本特集を企画した。
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