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はじめに
臍帯は胎児と母体の胎盤をつなぐ2本の臍帯動脈と1本の臍帯静脈からなる管状組織であり,出生後に切断された臍帯は乾燥脱落するという経過をたどる。また一般に,臍部は微生物の侵入門戸としても認識され,鼻腔前庭部に次いでMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)が高く検出される部位との報告もある1,2)。
無菌の胎内から出生した新生児は,感染に対する防御能が未熟であるために,局所での微生物の増殖から全身的な感染症に進展するリスクが高い。このような観点から,抗菌薬や種々の薬剤を臍部へ塗布することが推奨されてきた経緯がある3)。事実,ネパールやパキスタン等の開発途上国では臍炎の重症化から敗血症(sepsis),そして死へ進展する例も少なくなく,臍帯の衛生管理に加え,chlorhexidine(CHX)等の組織傷害性薬物の塗布が新生児死亡を低減化するうえで有効であったと報告されている4,5)。
一方,先進諸国では,ルーチンとして行なわれてきた臍消毒,あるいは抗生剤の投与について,エビデンスに基づく見直しが行なわれてきた。本邦において1986年に施行された臍帯ケアのアンケート調査では,「80%以上の施設が様々な種類の消毒薬を使用しており」,「各施設毎に独自の手順で実施されている」との結果が報告されている6,7)。これを踏まえると,現状においても,わが国ではいまだ臍帯ケアは標準化されていないと言える。
米国新生児看護協会(National Association of Neonatal Nurses:NANN)による臨床実践ガイドラインにも,「イソプロピルアルコールのルーチンの使用は推奨されない」と記載されているのみである8)。一方,最近のコクランシステマテイックレビユーにおいては,「消毒薬の使用が自然乾燥よりも優れているという結果は見出せなかった」とされている9-11)。したがって,先進国においても臍帯ケア方法はいまだ確立されていない。
臍帯ケアは国の医療水準や衛生環境に大きく影響を受けるものと考えられ,そのために,先進国と開発途上国のそれぞれの結果を単純に本邦の臍帯ケアに当てはめることはできない。今回われわれは,臍帯ケアにおける消毒の必要性について日本におけるエビデンスを得ることを目的とし,A病院の新生児を対象に,従来通りのイソプロピルアルコールの消毒群と自然乾燥群(alcohol versus natural drying for newborn cord care)の2群に分け比較検討し,若干の知見を得たので報告する。
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