外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問
25.傷に消毒は必要か
夏井 睦
1
Makoto NATSUI
1
1慈泉会相澤病院外傷治療センター
pp.206-207
発行日 2006年2月20日
Published Date 2006/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407100360
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傷に消毒は必要ない,と言うべきか,消毒薬は本来,傷のなかに入れてはいけない物質であり,このことは欧米の外科の教科書には以前から明記されていて,いわば普遍的事実である.「傷に消毒は必要か」という質問自体,すでに時代遅れなのである.
傷の消毒は1870年代に始まった.近代外科の祖と言われるリスターの業績である.当時はちょっとした外傷や手術後の傷も高い頻度で化膿し,敗血症になることも稀ではなかった.このとき,リスターは傷を消毒することでそれらが劇的に減少することを示した.具体的には石炭酸という消毒薬で傷を洗い,石炭酸に浸したリント布で傷を覆う方法だった.これだけをみれば,「傷を消毒すると傷が化膿しなくなる」ように思われる.しかし,当時すでに,リスターが使用した石炭酸はあまり殺菌力が強くなく,多くの細菌が死なずに生き残っていることが指摘されていた.リスターが石炭酸消毒で創感染(敗血症)を減らしたのは事実であるが,その石炭酸の殺菌力は弱いというのも事実なのである.つまり,創感染の減少と石炭酸の殺菌力は無関係だったのである.
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