連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・72
子どもの人生の多くは母親に委ねられている
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Clinic
pp.280-281
発行日 2010年3月25日
Published Date 2010/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101629
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赤ちゃんを歓迎していなかったマリア
元旦に生まれたマリアの赤ちゃんが,病院への搬送途中に亡くなった。生後11日目,原因は臍からの出血による失血死だった。故意に起こした外傷なのか,事故なのかはわからない。この子の訃報を含めて,ここで生まれた何人の子どもが3歳の誕生日を迎えられなかっただろうか? その数はあまりにも多い。
マリアの赤ちゃんに出血が起こったのは産後10日目の夕方だった。なかなか取れない臍帯を引っ張って剥がしたら,出血が始まったのだと言う。しかし,クリニックへ連れてきたのは翌朝の8時。信じられないが,すでに12時間以上が経過している。そもそも,10日間も臍帯がくっついていること自体おかしい。実際に何が赤ちゃんに起こったのかはわからない。ともかく,クリニックに連れてきた時点で赤ちゃんの顔色は黄泥色になっており,著明な貧血状態だった。出血は臍にかかっているオムツ,産着,おくるみすべてに染み渡り,産着は搾れるほどだった。血液の色からも動脈性の出血なのは明らかだ。臍は見た目では傷もなく窪んでいて,窪みの内部から出血があふれるようにどくどくとわき上がって来ている。おそらく切開しなければ出血点を結紮できない。効果が感じられないが圧迫し,すぐに病院へと転送の手配を始める。しかし,マリアはすこしも動揺していない様子だった。
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