連載 とらうべ
伝えられるもの,磨いていくもの
宮下 美代子
1
1みやした助産院
pp.567
発行日 2004年7月1日
Published Date 2004/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100769
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- 文献概要
乳房に触れるといろいろなことが伝わってくる。乳房は顔と同じくらい個性があるといつも思う。冷たさ,温かさ,緊張感,体の調子,不快さ,心地よさ,匂い,柔らかさ,硬さ,柔軟性……。乳房に触れると思い出せるほど,その人のことが感覚として手に残る。赤ちゃんの口の反応を見ていてもどうしてほしいのかが伝わってくる。人の数だけ抱えている問題や環境に違いがある。初めて会うその瞬間に,にじみ出るその人の表情などから何かを感じとる“勘”は経験を重ねることで磨かれていくものであろう。
私が開業した平成2年当時,母子同室や自律授乳はまだ少なく,乳房トラブルの辛さや育児不安に悩む母親達の悲痛な声に毎日のように走り回っていた。そばに寄り添い,母親達の気持ちを受け止めることのしんどさに乳房が夢に出てくることさえあった。こうした声に答え,積み重ねてきた経験が助産師である自分を育ててくれた。そして,先輩助産師が母親や赤ちゃんに誠心誠意向き合う姿勢を伝えてくれたことも私の支えとなった。
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