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はじめに
女性の人生にとって重要なライフイベントである出産は,健康障害の大きな原因ともなりうることから,リプロダクティブヘルス1)の重要な課題である。母子保健という観点でみれば,母体死亡率,周産期死亡率の減少が公衆衛生上の指標として重要であるが,ある程度の達成をみた20世紀の次に来るものは価値ある出産の演出ではないだろうか。『WHOの59カ条お産のケア実践ガイド』2)には正常産のケアについて書かれているが,当たり前のようなケアが日本も含めて世界中で必ずしもできていない可能性がある。
私はこれまで,分娩台を使用した一般病院で産婦人科医師として勤務してきたが,産む女性中心のケアになっているかどうか常に疑問を持ち,それなりに改善を試みてきた。2003年4月から縁あってふれあい横浜ホスピタルに勤務することになったが,ここには今まで求めてきたケアがあった。出産は産む本人が主体だが,生まれる胎児,家族,医療スタッフの人間としての充実感も重要な要素である。
最近は本やインターネットなどで情報を得てどんなお産にしたいか考えて臨む人も増えた3)。出産は,産む女性や生まれる子どもにとって重要な通過儀礼であり,医療の名の下にその尊厳を損ねてはならない。当院では畳の上での静かなお産で,不要な声かけすらしない。わざわざフリースタイルというまでもない,自由で自然で静かなお産である。病院で分娩台のお産しか見ていないと,畳の上ではリスクが高いという先入観を持つかもしれないが,自然経過は児を骨盤軸に沿って無理なく誘導するため,真のリスクはむしろ少ないと思われる。分娩台では過剰な医療介入を容易にし,会陰切開や急速遂娩など,その処置に伴う母体の健康リスクの増加が懸念される。不要な処置をしないケアは,家族にとっても胎児にとっても,そして医療者自身にとっても快適なケアなのである4)。1つ快適さに気づくと,そこから全てが変わっていく。助産の中心はあくまでも助産師なのである。この数か月で私は限りなく多くのことを助産師さんから学ぶことができた。
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