発言席
心のふれあいこそ
蔵田 愛子
pp.9
発行日 1983年1月10日
Published Date 1983/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662206616
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1980年の暦の上では立春を告げる頃,猛吹雪の中に見た一人の女性の後姿が未だに忘れられずにいるのです。毛糸編みの帽子を頭からすっぽりとかぶり,身の安全を守るかのように体を小さくまるめて吹雪の中に消えていった女性,数時間後再びその姿を窓越しに認めた時,私は思わず戸外に飛びだしていました。「保健婦さん」何事かと問う私の言葉に「チョット気になるケースのところまで,歩くのは慣れていますので」こともなげに言い残して立ち去って行きました。仕事とはいえ彼女の献身的な行動にはまったく頭の下がる思いでした。地域を愛し一人一人に対してきめ細かい面倒を施す,その情熱とあたたかい人間性がストレートに伝わってくるのでした。
彼女は地域の方達の心の支えであり,パイプ役をつとめている私の良き助言者でもありました。私が彼女—保健婦さんと共に歩んできた10年間……その間には数限りない想い出があります。第1子の女児を出産した1回目の訪問の際,新生児の目の色が白っぽいのに気がついたが,赤ちゃんとはこういうものという固定観念を持っている母親に検査を受けさせるため苦労したこと。育児書,医学書に首ったけで幼児がガンになったと思い込み,病院へ行くのがこわいと食事ものどに通らない様子の母親,確かに鼻の横に固いものがあり一緒に病院へ連れて行くと,たんなる脂肪の固りとの診断でした。
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