- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- サイト内被引用
はじめに
現在のわが国では,年間の人工妊娠中絶(以下,中絶とする)数は34万件前後を推移しており1),これは出産数のおおよそ3分の1を占める。既婚女性の4人に1人が中絶経験者であるといわれている2)。これだけ数の多い中絶であるが,筆者のこれまでの様々な場所での臨床経験では,特殊な状況下での中絶(胎児に奇形や障害が発覚した場合や母体合併症を理由としたもの)を除くと,ケアが重視されることがなかった。他の妊娠・出産などのケースと比較すると,スタッフ間でもケアについて検討を重ねるということは皆無に等しく,日々疑問を感じていた。
筆者が調査したわが国における中絶に関する文書や文献では,「中絶の歴史」,「倫理的な面からみた中絶」,「中絶を安全に実施する」,「中絶の傾向」,「中絶の減少=望まない妊娠を防ぐ」といったテーマが主流であった。数年前より少しずつ「中絶のケア」に注目したものが見受けられるようになってきたが,臨床家が個人の臨床経験を語っているものが多いように思われる3~5)。研究に関しても先に述べた文書や文献の類と同様の傾向であり,臨床で一般化できるような中絶ケアは確立できていないのが現状である。現在においても,一般的な臨床の場面では中絶のケア=安全に実施できること,望まない妊娠を防ぐことに主眼がおかれているようである。しかしながら,他国の文献をみてみると,PAS(Post Abortion Syndrome)がPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)の一類型を示すことがわかり6),中絶を受ける女性の精神的なダメージについて明らかになってきている。わが国においても,中絶を受ける女性のケアを発展させていかなくてはならないと思う。
中絶のケアに関する研究・調査がないことから,まず看護の現状を認識することから着手することにした。そこで,研究のテーマを「中絶のケアに対する看護者の態度」とし,方法は聞き取り調査により実施した。なお,この調査は主に1997年度日本赤十字看護大学大学院の修士論文作成のために実施したものであり,それに加筆,修正を加えた。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.