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はじめに
「依存症」というとまず思い浮かぶのはアルコール依存症です。アルコール依存症は,その昔「慢性アルコール中毒」,俗に「アル中」と呼ばれていました。しかしながら中毒の医学的・科学的概念が解明されると,慢性中毒はアルコール依存症の病態を正確に表していないことがわかってきました。このことと精神科疾患に共通する呼称の差別的なニュアンスもあって,アルコール依存症と呼称が変更されたのです。
この「依存症」ですが,WHOの国際疾病分類ICDの「精神および行動の障害」の項では,「ある物質の使用や行為が,その反復により生理的,行動的,認知的現象において,それまでの経験で得たどんな大きな価値より優るようになることを『依存が形成』されたといい,明白に有害な結果が生じているにもかかわらず,物質の使用や行為を続け,さらに状況を悪化させ,身体的,社会的に破壊をきたす状態を『依存が確立』した状態」と定義しています。この定義を簡潔にすれば,「依存症とは,行動の適正なコントロールができなくなる病気」ということです。臨床現場で遭遇するさまざまな依存症は,すべてこのコントロール障害という概念でとらえることができます。
職場で問題としてよく相談を受ける依存症には,アルコール依存症とギャンブル依存症があります。現在の推計ではこれらはともに日本に200万人以上いるとされていますが,前者は疾病として認められているものの,後者はまだ国が疾病として認めておらず専門の治療施設として掲げている医療機関はわずかです。ともに疾病病理からすると「病気の根っ子」は同じですから,今回は,この2つの依存症をアディクションという大きな概念でとらえて同時に解説します。
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