ものがたり教育史 日本の女子教育・その3
文明開化と女子教育
中嶌 邦
1
1日本女子大学文学部史学科
pp.45-48
発行日 1967年6月1日
Published Date 1967/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663908860
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I am a girl
長い鎖国がとかれて,開港と貿易が始まるとみるや太平洋の一隅に,細長く,取りのこされている様な日本にも,キリスト教をひろめるべく,宣教師達が,長い航海をものともせず,次々とやって来た。しかし,当時の日本には,徳川200年余にわたる禁教の歴史があり,邪教の観念は根深くはびこっていた。簡単に伝道の仕事はできない。そこで彼等は,欧米の事情を知りたい,その為には是非言葉を覚えたい,教えてもらいたいという人びとの欲求に応ずることから始めることにし,英語塾を開いて,そのかたわら,知らず知らずの中にキリスト教の信仰に入らせるという伝道方法をとったのである。熱心な勉強家であると思いきや,政府の廻し者であったり,下僕をやとったら,宣教師を殺す目的であったと告白されたりという様なエピソードが残っている中で,地道な活動が続けられたのである。
しかし,人々の英語熱,洋学熱はなかなかなものがあり,警戒はしながらも,次第に宣教師の知識に,そして人柄に動かされていったのである。こうした状況は,女性であっても,新らしさにふれてみたい,進んで英語を身につけてみたいという人びとを生んで来るのは,自然のなりゆきである。明治2年,米国長老派教会から派遣されていた,カローザス(Crothers)も,英語塾を開いて,教えていた。ところが,ある日,一人の生徒が,黒板に“I am a girl”と書いて見せた。
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