自己自身として生きるために/人間学的断想・12
生きてあること
谷口 隆之助
1
1元:八代学院大学
pp.393-397
発行日 1977年6月25日
Published Date 1977/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907110
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贈られているいのち
わたしたちがいま,ここに,このようにして生きているということは,端的に言えば,なんの理由もなしにいまわたしたちにいのちが贈られてあるからであり,この贈られてあるいのちによってここに生かされてあるからである.わたしたちのうちだれひとりとして自分のいのちを自分でつくりだしたものはいないのである.それにもかかわらず,いまわたしたちがこうやって生きているということは,わたしたちが自分で自分のいのちを生かしているからなのではなく,逆に,自分が自分に贈られているいのちによっていま生かされているからなのである.それゆえに,生きるということは,その根本においては,わたしたちが自分に贈られているいのちに身を委ね,そのいのちのままに生かされ,そのいのちのままに生きる,ということなのである.わたしたちが自己自身として生きるというとき,わたしたちがはっきりと見ておかなければならない根本のところは,この点なのである.
わたしたちは普通,自分にいのちが贈られてあり,この贈られているいのちによって自分が生かされているという,このもっとも根本の,そしてもっとも端的な事実をはっきりと受諒してはいないし,またこの事実にそのまま身をあけわたして生きてはいない,と言ってよい.むしろ,現代人の人生態度は,その根本のところでさまざまの混乱を示している,ということが実情であろう.
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