教育のひろば
金のかからない教育
長尾 十三二
1
1東京教育大学教育学
pp.5
発行日 1966年9月1日
Published Date 1966/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905696
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新内閣が発足した。組閣を終えた佐藤さんが今後の施政方針を声明したが,そのなかで「金のかからない教育」の実現に努力するという意味のことをいつている。「金のかからない教育」という言葉をきいた時,一瞬,文教費を節約して防衛費にまわすのではないかと疑ったが,そうではなくて,親の教育費負担を軽減するということらしい。たとえば,例の早大騒動に示されているような私学の財政難を救うというようなことが一つの眼目になっているようである。教科書無償の完全実施などは今さら取り立てていう必要もなかろう。できることなら,教科書よりは学校給食の方を無償でやってもらいたいと私などは考えている。その方が親の教育費負担を大幅に助けることになるのだけはまちがいない。
「金のかからない教育」というのは,「金のかからない医療」などというのと同じく,いってみれば福祉国家的行政の理想であって,遅まきながら,わが国の総理大臣がそれを言ってくれたということは,それ自体としては無論おおいに結構なことである。けれども,そこに多少の気懸りがないわけではない。たとえば,例の教科書無償と抱き合わせた検定制度や広域採択制が強化されたように「金がかからない」ということをうりものにして,教科書や教師,学校の画一化を進められては困るのである。
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