連載 教育心理学講座・1【新連載】
知能の構造と測定法
北尾 倫彦
1
1大阪学芸大学
pp.59-62
発行日 1965年4月1日
Published Date 1965/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905444
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
われわれが教育の場でしばしば口にする知能という概念は,古くギリシャの昔から考えられてきたものである。すなわちそこでは,現象界の根底を支配している純粋理知(nous)が個々人の知的活動となってあらわれた理解能力(dianceia)が,知能に相当するものであると考えられていた。当時においては,単に思弁的にとらえられていたのにすぎなかったが,その後自然科学の発達に刺激されて,知能という概念が科学的に,客観的に実証された内容をもつようになった。そして今日においては,科学としての心理学,とくに教育心理学の中で重要な問題として研究されている。
人間の知的活動を指導したり評価しようとする場合には,その人その人の中に具わっている知的な能力を正しくとらえる必要がある。ところが,一口に知的な能力とか知能といっても,その中にどんな内容を含めるべきかについては一義的に決定しがたいのである。それは直面する課題の性質によって,おもにはたらく能力が異るからである。パズルを解くときはおもに推理的な能力がはたらき,試験前に教材を暗記しようとするときには,おもに記憶能力が必要とされるであろう。また記憶能力といっても,数字を記憶する場合と人名を記憶する場合ではなにか質的に異るように思われる。このような日常経験から考えてみても,知能が単純な構造をもつものではなく,いろいろな能力が複雑に関連し合って構成されていることがわかるであろう。
Copyright © 1965, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.