連載 医療と社会 ブックガイド・28
『こんな夜更けにバナナかよ』・2
立岩 真也
1
1立命館大学大学院
pp.470-471
発行日 2003年6月25日
Published Date 2003/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663903429
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筋ジストロフィーで1995年からは人工呼吸器をつけて暮らした鹿野靖明のこと,そして彼の介助をした人たちのことを書いた本,渡辺一史の『こんな夜更けにバナナかよ―筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』(北海道新聞社,2003年,463p.,1800円)を紹介している.
この妙な本の題は,鹿野に夜中に起こされて,バナナを食わせろと言われ,腹を立てながらとにかく指示に従って,それで寝ようと思ったら,「もう1本」と言われて,腹を立てる気もしなくなったという,なんだかよくできた話(p. 32,266)からとられた.この本を「ケア論」として読むこともできる.ただ,だからどうだというのだ,とも思う.真面目な人の中には,本を読むと教訓を得なくてはならないと思う人や,役に立てなくてはと思う人がいるのだが,それはやめた方がよいかもしれない.この本には,知らないようでもあり,みなが知っているようでもあることが書かれている.それは「人生」などというものについてほとんど何も言うことがないのと似ているし,しかしそれでもいくらでも語ることがあることにも似ている.
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