連載 生理学はおもしろい・3
循環
高田 明和
1
,
高田 由美子
1
1浜松医科大学医学部
pp.488-491
発行日 1998年6月25日
Published Date 1998/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901856
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血液は循環する
血液が体内を循環しているから,人は生きていられるのだが,中世までの医学では血液が循環するという考え方はなかった.ローマで活躍した名医(A. D. 129-200)ガレノスが体系化した血液の流れの考えでは,心臓では神の熱と肺から吸い込んだ宇宙に漂う霊気(プノイマ)を与えられ,潮が満ちたり引いたりするように全身に送られると考えられた.ガレノスにより組み立てられた血液の流れはキリスト教の教義に基づいていたので,絶対不可侵のものと考えられていた.この学説によれば血液は右心から心臓の中隔の穴を通って左心にゆくとされた.
図3-1は13世紀に描かれた心臓と血管の解剖図である.血液が循環しているかのように見える図であるが,当時は血液が循環するという考えはなかった.16世紀初頭にセルベテスという学者は「血液は肺動脈から肺へ,さらに肺動脈を通って心臓に戻ってくる」と発表したために火刑になっている.まさにガリレオの地動説にも似た扱いを受けたのである.
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