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本連載は、ベナー看護論を、そのベースとなっている「現象学」という哲学の視点から理解することを目指してきました。そのため、まずもってベナー/ルーベルの『現象学的人間論と看護』*1で提示されている現象学的人間観の5つの視点、すなわち「身体化した知性」「背景的意味」「気づかい/関心」「状況」「時間性」について解説し、この書物で展開されている看護理論のいくつかの特徴についても考察しました。そのうえで第10回からは、ベナーの単著『ベナー看護論』*2に立ち返り、そこで採用されている方法と、この方法によって明らかにされた看護技能の5段階の理論について、現象学的人間観という視点から考察いたしました。
この書物の第1の目的は、「達人の臨床実践に埋め込まれている知の独自性と豊かさ」を明らかにして「看護理論」に組み入れ、これを看護実践や看護教育に活かすことにありました。そのため、ベナーは多くの達人看護師に—また比較のため新人看護師や看護学生にも—インタビューや参与観察を行い、それらによって得られたデータを、「ハイデガーの現象学」に基づいた「解釈的アプローチ」という方法によって明らかにしようとしました。この方法を採用した背景には、ハイデガーの現象学やそれを解釈学へと展開したガダマーの「経験」概念に学ぶことによって、人間が、そのつどの「状況」において「経験」を積み重ね、状況を共有する人々との間に「背景的意味」を形成していく「時間性」という在り方をした自己解釈する存在であり、達人看護師の「専門的技能」も、そのつどの「状況」との「トランスアクション」によって生じる「経験」の積み重ねによって形作られていくという人間観がありました。
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