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私自身の悩みや葛藤を表現できずにいた病院時代
私は現在,船橋市内の在宅クリニックで訪問看護師として働いています。看護学生の頃からターミナルケアに関心があり,患者さんや家族の思いを大切にした,“自然な看取り”をサポートできる看護師になりたいと思っていました。新卒時には,まずは一人前の看護師になるべく,教育体制が整っていると思ったことから,都内の私立大学病院に就職しました。さまざまな喜びや達成感がありながらも,同時進行する複数の処置,役割の増加,不規則な生活……と,だんだん心身に限界を感じ,6年間勤務した後に退職しました。しかしその後も当時の疲弊感が自分のなかで引っかかったままであった私は,看護職生涯発達学のことを知り,大学院で学ぶことを決心しました。そこで学べば,引っかかっていることを変えられる何かが身につくのではないかと思ったからです。
入学後,ゼミなどを通して,「私は本当のところ,何に苦しんでいたのだろう?」と,研究テーマにつながる問いを自分自身にするようになりました。その結果,私は“系統的な思考による看護ができる看護師が一人前”という職場のフレーム(そうあらねば,という思い込みだったのかもしれません)に,自分自身を当てはめることに苦しんでいたのだと気づきました。当時は関連図や看護過程を用い,「こうだからこう」と根拠を明確にした実践をするよう指導され,私もそう心がけていました。しかし,看護師自身の悩みや葛藤といった思いについては,仕事のなかできちんと言葉にすることができずにいたのです。そういう私自身の迷いや葛藤は,患者・家族らの問題として取り上げる看護過程とは分別すべきと思っており,知らず知らずのうちに自分のなかに押し込めてしまっていたのです。私はようやく,自分自身の本当の苦しみが何だったのかを知ることができました。
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