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書評 ―『ナイチンゲール伝 図説 看護覚え書とともに』―人格のリアリティから生きた時代までの理解が深まる
川原 由佳里
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1日本赤十字看護大学
pp.521
発行日 2014年6月25日
Published Date 2014/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102728
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看護を代表する人物といえばナイチンゲール。彼女ほど数多く取り上げられ,議論されている人はいない。そのなかで,今回の『ナイチンゲール伝』の魅力をあげるとするならば,1つは,著者が医師・歴史研究者(科学者)として,あくまでも事実の正確さを追求している点であり,もう1つは,漫画家(芸術家)としてナイチンゲールの体験の生々しい強度や色彩を伝えつつも,テンポの良い文章と構成の妙により,最後まで飽きずに読ませる技巧が施されている点だと思う。読み始めたとき,漫画にしては多すぎると思った量の文字も,この作品のもつ2つの重力(執念?)に引き寄せられ,一気に最後まで読みきってしまった。
いたずらにナイチンゲールを神聖視しない,公平なまなざしもこの作品の魅力である。看護の関係者だとそうはいかない場合もある。看護にきわめて近く,しかし看護を専門としない医師という立場が奏功したと思う。そのためかナイチンゲールの人物の多面性があますことなく描かれており,読み手は「どう受けとめればよいか」という困惑を経て,しまいには「いやもう,これはありのままに受けとめるしかない」と諦念にたどりつく。ナイチンゲールは,可憐,繊細,きわめて賢く,高潔である一方で,極端,強情,とんでもない暴君でもある。そんな多面的なナイチンゲールから,肌で感じるような人格のリアリティが伝わってくる。意外にも読後感は穏やかである。
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