私の一冊
医療福祉政策の戦後史が詰まっている
岡谷 恵子
1
1近大姫路大学看護部
pp.436-437
発行日 2010年5月25日
Published Date 2010/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101471
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■福祉医療の未来へ捧ぐ
大谷藤郎先生は1952年に京都大学医学部を卒業された後,地方公務員である保健所職員となり,1959年に厚生省(現厚生労働省)に入省され,1983年に退官されるまで24年間,厚生官僚として公衆衛生局長,医務局長を歴任されました。この著書は,先生が生涯をかけて取り組んでこられたハンセン病,精神障害,難病などの制度に関わる厚生行政において出会ったさまざまな立場の人々の思想や活動,実践を語りながら,それらの出会いから厚生官僚として自分が何を学び,どう行動したか,そして何ができなかったのか,反省すべきことは何かを真摯に見つめ,将来の日本の「福祉医療」がどうあるべきかを論じ,次世代を担う若い人たちに夢を託した,先生の思想史とも言えるものである。
本書の約半分(1章・2章)は,ハンセン病患者の強制隔離政策と戦い,らい予防法の廃止を実現させるまでの足跡に関する記述に費やされている。らい予防法が廃止されたのは1996年で,先生の厚生省退官後のことである。先生がらい予防法廃止に正面から取り組んだのは退官してからである。先生は厚生省の国立療養所課長の在任中に廃止に踏み切れなかったことを本書の中で,「医学的にも人権的にも不当な人身拘束が法律で行われていたのであり,一日も早く廃止の提起を行うべきであった。自信と勇気を持たず,提起が遅れた私の責任は重い。そのことを十分に自覚して反省し,申し訳なく思っている」と患者に対して謝罪のことばを何度も述べられている。
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