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僻地において病気になったとき,人々は自家診断・自家治療をする
坪倉 波平さんのご著書『からだの文化人類学』を読ませていただきました。そこで書かれている身体観は,看護にとっても大切な視点だと思います。今日は,身体観と看護についてお話をうかがいたいと思います。
まず最初に,文化人類学,あるいはそれを通して医療や看護に傾倒していかれたきっかけや,問題意識などがありましたら,お話しいただけますか。
波平 私の専門は,文化人類学を背景とした医療人類学です。文化人類学を研究していて医療の問題に気がつくようになりましたのは,村落調査をしたことがきっかけです。文化人類学で村落調査をする場合には,可能な限り総合的な調査をして,その中から関心領域をしぼっていきます。
1964年から10年近く調査を続けた頃に,アメリカで医療人類学という領域が盛んになってきました。私は,自分のデータの中に,医療に関わること,特に医療制度と人々の健康保持の方法や,死に方などがたくさん蓄積されていたので,そのデータを使って,医療人類学という領域を視座に入れながら何かやれるだろうかと考えるようになりました。そして,医療,身体,健康,病気治療,治療戦略といったテーマを立てて,少しずつ論文を書いていきました。
調査地は辺鄙な場所だったため,人々は普段は自家診断,自家治療で暮らしていました。近くに診療所も県立病院の分院もあるのですが,それらは救急の場合や,がんや結核,大きな外傷を受けた人たちが対象でした。病院に行かないで,自分で診断して薬を飲んで治すということを一貫してやれるというのは,生半なことではないのに,「これは3日寝れば治る」「これは富山の置き薬で治すことができる」というように判断するわけです。都市に住んでいる私たちには,とてもそういう自信がありません。彼らは,確固とした治療観といいますか,身体観をもっています。そして,それに少しずつ絡む形で現代医療が存在していて,言ってみれば,現代医療はほんの少ししか浸透していない状態なのです。
この状態から,今後はどんなふうに医療観や身体観,病気観が変わっていくのかを明らかにし,皆さんにも知ってほしいと思いました。
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