連載 感染症 Up to Date・68
麻疹(はしか)—最近の国内外の状況と今後の対策
砂川 富正
1,2,3
,
安井 良則
4,5
1国立感染症研究所感染症情報センター
2横浜検疫所検疫課
3大阪感染症流行予測調査会
4堺市保健所
5大阪感染症流行予測調査会
pp.348-353
発行日 2002年4月10日
Published Date 2002/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902607
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麻疹(はしか)という病気
世界で対策が進み,米国では年間の患者発生数が100人を切ったとされるはしか(以下,麻疹)は,わが国においては毎年のように各地で流行を繰り返している。麻疹は麻疹ウイルスの感染によって引き起こされ,高熱と発疹が特徴的で,主に小児の病気とされてきたが,歴史的には大人の病気でもある。麻疹ウイルスは自然界では唯一ヒトを宿主とする。空気感染により伝播し,感染力が非常に強いことで知られ,1名の患者が発生すると,周辺で17〜20名が感染するといわれている1)。
先進国においても感染者1000人あたり約1〜2名が死亡,もしくは脳炎などによって重篤な後遺症を残すことが知られており,栄養状態が不良な地域では,症例死亡率(麻疹を発症した者の死亡率)が10〜30%に達する場合がある1,2)。日本国内でも毎年100名前後の死亡例が出ていると推定されるが,この数は,1981〜2000年にかけての厚生労働省の年次別食中毒発生状況3)こおける年次の死者報告数の中間値が8名(4〜21名)であることと比較しても,決して少ないものではない。また麻疹ウイルス感染による中枢神経系のまれで重篤な合併症として,感染数年後に現れる亜急性硬化性全脳炎(SSPE)が自然麻疹感染者の100万人に5〜10名発生するといわれている4)。
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