特集 感染症対策のパラダイムシフト
予防接種
猿田 克年
1
1厚生省結核感染症課
pp.1101-1106
発行日 1997年12月10日
Published Date 1997/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662901696
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
微生物と人間との関わりは,感染や共生というかたちで,人類の誕生以来ずっと続いてきたものである。微生物は,あるときは宿主(人間)を殺し,あるときは宿主を助けながら,今日まで絶滅せずに地球上に存在してきた。微生物も生き物であるから,自分が生きるためには,本当は宿主を殺すことはあまり得策ではない。宿主を殺してしまったら自分も一緒に死んでしまうかもしれないし,次の宿主に巡り合えないかもしれないからである。微生物にとってみれば,宿主と仲良く共存するほうが有利なのである。したがって,多くの微生物は,たまたま宿主が何らかの理由で弱っていたりしない限り,ふつうは宿主を攻撃しないものが多い。たとえば,ポリオは,感染してもそのほとんどが症状のない不顕性感染であり,麻痺を起こしたりするのは,ほんの一部の感染例に過ぎないのである。
このように人間のみに感染する病原体は,病原性が強いと病原体そのものが淘汰してしまうため,侵襲の弱いものだけ生き残ることになる。今は恐ろしいとされるHIVウイルスについても,何世紀もたてば病原性が弱くなって,いずれはATLウィルスのような比較的穏やかな微生物になると考えている。しかし,われわれはそのときまで生きてはいないだろうから,今ある恐ろしい感染症については,しっかりとその対応を考えておく必要がある。
Copyright © 1997, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.