私たちをささえるもの 手記
ある日の訪問
N生
1
1大阪N保健所
pp.20-21
発行日 1963年1月10日
Published Date 1963/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202722
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ホアー,ホアー,柔かい赤ちやんのかなでる泣き声に,目的地未熟児訪問家を捜し当てた安堵に門をくぐる.待ち受けて迎えられ,通された部屋には,目新しい調度品が,部屋が狭しと並んでいる.部屋には大きすぎるベットが,どつかと据えられ,そこに一見やや理想的?と思われる,育児がなされている.
しかし,オヤオヤお母さんこんなに,たくさん着物を着せて巻いたのでは,坊やは,窮屈ですよ,さあ少しゆるめてあげようね.ゆるめればさも気持よさそうに,ダラリと眠りつく,一通りの育児について話し合う.先ず難なく門を出る.次いで結核患者へ,先だつて来て,入院を勧め,患者自身もその気になつたが,ボーダーラインすれすれ,なお重症と言う事で,尋ね当る病院皆空室なしと受け入れてくれない.家族全員入院費の心配の上にも何とか早く癒したい一念に,入院を急ぐ,全く皮肉なもの,暗い感じの暗い部屋,ガフキー4号,何も知らない坊やがその枕元に,パパ元気をお出し,と言わぬばかりにはい寄る.心配そうに見まもる母親,そこに訪ねた私,何とか早く善処せねばと……現行命令入所の規則があつても無きが如きの法がうらめしく,多方面の病院空室を尋ね当る事にし患家を出る,路地から路地に足を運びながら思う.赤ちやんを訪ねるときは,その赤ちやんになり,出来る限り許される範囲内での要求を哺育に注文を訴えてやまない.
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