教養講座
生活のなかの演技
堀 秀彦
1
1東洋大学
pp.41-43
発行日 1961年3月10日
Published Date 1961/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202289
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◇雰囲気をやわらげる演技の大切さ
生活のなかでは演技が必要であること,まずこれをはつきり知つて頂きたいのです.演技なぞ要らない,演技どころか,真実をもつて人とまじわり生活するのがほんとうだ.もしあなたがこんなふうに思い込んでいられるとしたら,そういう考えを一応すててもらいたいのです.真実をもつて人と交わり接することがなぜいけないのか,あなたはこうおききになるにちがいない.たしかに人間がみんな真実をもつて交わり,それでうまくいくようでしたら,それに越したことはないのです.けれども,悲しいことに,真実はしばしばそのまま相手に通じないことが多いのです.私の真実の気持ちが友人や子供たちにいかに伝わらなかつたか,私はそういう経験をたびたびもつています.真実は,なかなか相手につたわりにくいものです.真実の気持ちをもつて接しておれば,いつかは必ず相手もわかつてくれるだろう.私たちはよくこんなふうに考えます.けれども率直に言えば,いつまでも相手がわかつてくれない場合が,むしろ,多いのではないかとさえ思います.
真実はそのままなかなか相手につたわりにくい,ところが,その反対に演技の方はもつと容易に相手に受け入れられるようです.ひとりの男の真実の愛を拒絶しながら,他方では別の男の演技的な愛に身をまかせる,そしてその結果ひどい目に逢う—こういう女性の場合は決して少なくはありますまい.
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