講座
農村の理解のために(3)
堀越 久甫
1
1農山漁村文化協会
pp.24-27
発行日 1958年11月10日
Published Date 1958/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201755
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1.農家の経済
(1)「よりよい生活を」という哲学
今日の世の中では,たいがいのことが金で片つく.そういうことは好ましくないことだと思う人もあるだろうが,如何せん,これは事実である.だから,農村は景色がいい,空気がいい,といつたことをならべても,そこで暮す人々のフトコロが淋しいのでは,とても農村はいいところだといえないだろう.長い間,日本の農民はこういう点でごまかしの論理をしいられてきた.農村生活を牧歌的に讃美し,その内部にある人々の貧しさを隠してきた.一種の精神主義が農民をとらえていたのである.
例えば,農民はよくこういう言い方をする.「月給取なんてあわれなもんさ.家もなければ土地もない」と.この言の裏には,オレ達には自分が所有する土地と家とがあるんだぞという誇りがふくまれている.が,そう言つていばる農民の具体的な暮しをみよう.日常の食物はどうか.毎日の着ている衣服は,そして生活に使う住居はどうか,など日常の暮しをみると,それは明瞭に月給取よりもおとるものだつたし,決して快適な生活とはいえないものであつた.
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