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"芸術の園"八幡學園を訪れて
松本 一郎
pp.145-151
発行日 1957年5月10日
Published Date 1957/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201425
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昨年のジアーナリズムの三大事件というのは,人によつていろいろと取りあげ方も違うようだが,その一に,太陽族のバツコ,その二に,週間雑誌のハンランその三に,山下清の登場だと云つている人が多い.太陽族というのは,いまさらいうまでもなく,石原慎太郎の文壇登場を契機として,町にも村にも,海にも山にもはびこつてきた,若い,無節操な,そして旺盛なバイキンのようなヤカラのこと.週間雑誌のハンランというのは,日本人の智恵をわずか30円の価値に引下げ,しかも物の考え方を一週間以上つづかせないようにコマ切れにしてしまつた,軽文化流行の悲しむべき現象を指摘している.せいぜい,クイズくらいしか考えないような,フヌケた人間が,このおかげで全国にハンランした.とにかく三大事件のうちのこの二つまでは,ジアーナリズムの作りあげた神武以来の大罪である.が,その三,山下清の登場というのは,同じジアーナリズムが作りあげたものとは云え,まことに明朗,まるで罪のつぐないを彼一人が背負つているような恰好である.
特異な天才画家,放浪の詩人,ハダカの王様,そして,「兵隊の位にしたら……」という,あのほほ笑ましい,神のような絶対的価値評価の基準の持主,「文芸春秋」愛読者投票第1位の人気筆者――等々が,山下清であることはいうまでもない.
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