今月におくる言葉
日常生活の中に試験が
pp.5
発行日 1955年5月10日
Published Date 1955/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200944
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真新しい徽章のついた,頭には少々大きすぎる位の帽子をかぶり,夢にみていたランドセルを背に,新調の靴もかるく2人,3人と仲良しこよしが手をつなぎ合つて学校に急ぐ.僕は今日から1年生.1年生がどんなものであるか,学校が,今まで通りなれた幼稚園とどんなに違うものかは,全く知らず,ただ自分達より大きいお姉さんや,お兄さんと,一緒になれること,同じように勉強の本をランドセルにいれていくことが出来ることに,無上のよろこびと,誇りとをもつているあどけなさ.此の春1年生になつた親類の女の子が,幼稚園の終りごろ体に不釣合いみたいな大きな机や椅子を買つてもらい,赤い革のランドセルや,時間を覚えさせるためといつて,小鳥のついた可愛い置時計など,机の上にのせて,おみやげにいただいた外国製の赤革の鉛筆入れや,色とりどりの鉛筆を,机の引出しから出したり,入れたりしているので,「1年生になるのうれしい?」ときいたら,「うれしくない」とまず返事をした.すかさず「何故?」というと,「だつて,勉強するんですもの試験だつてあるでしよう?」といつた.
勉強が何だかわからず,試験がどんなものか一向知らないのに,ただ「いやなもの」として受入れてしまつているのは恐ろしい.独り子なので,兄姉からうける影響はないのだが兄姉のある幼稚園の友達にきいたものである.
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