--------------------
臥して雪を見る—主婦の作文
山本 しん
pp.56-57
発行日 1954年9月10日
Published Date 1954/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200807
- 有料閲覧
- 文献概要
村はづれのアバラ家にひそやかに住む子のない中年の夫婦,しかも妻の私は病んでいる.勤めのかたわら,炊事,センタクと忙しい夫に,世間は「あのオヤジもたいへんだつぺえ」と同情の反面,「オツカア,すこしビタケ(あまえ)てんであんめえ」ぐらいのカゲ口もたたく.
夫はしがない一勤労者,月收1万には未だ遠く,しかも私の病床生活も既に2年半,收入の大半は薬餌に消え去つている.昨秋の兇作で田舍も配給がぐつと減り,私は外米がたべられず,月々150円のヤミ米6,7升の補給で生活はなかなか容易ではない.乏しい家計の中から,病人にだけはある程度栄養のあるものを……とする夫の苦心はなみなみならぬものがある.ブタのアブラ肉10円,お豆腐半丁などという買物をしてくるのを見ると,私は時々名状し難い気持にせまられる.「すべて要るだけ,オール・キヤシユで……オレの主義だもの,いいじやないか」と夫は笑う.だが10円の肉をヒゲカワと新聞でくるんでは,モウケがなくなつちやうべい……と,たまには古新聞を肉屋へ寄贈する夫でもある.
Copyright © 1954, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.