日記抄(3)
躍る季節
中野 アイ
pp.60-63
発行日 1953年7月10日
Published Date 1953/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200561
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5月20日 雨 ねんど道なので雨が降ると全く道が惡くなつてしまう.線路づたいに開拓部落に行く.つい此の前事までは,両側が雪の壁になつていたのにわずかの間によくもあれだけの雪が消えたものと驚く.すつかり見通しのきくようになつた部落の畠を見おろして歩く.これから登りになる.丁度此の辺だつた.1カ月程前に近藤さんのジヨンというセパードが汽車に轢かれたのは…….可哀想にと思い,あの雪を想い出す.
昨日お腹をこわして相談に來た,お誕生すぎたばかりの赤ちやん,すぐに汽車に乗せてお医者さんの所にやつたが,どんなぐあいだつたろう…….農繁期に入ると,どうしても赤ちやんの事は放りつぱなしになつてしまうので,胃腸をこわす赤ちやんが多く出てくるのではないだろうか.此の対策は……? 何か赤ちやんの泣き聲が聞えるような氣がし,私は吸いよせられるように,ぬかる道を前かがみになつて歩いた.表さんについた時には,雨と汗でぐつしよりぬれていたが赤ちやんが大変元気になつたことをききほつとする.色々と食事の注意などをしてかえつた.さつきの表さんのおばあちやんの言葉で,元気づけられるようだつた.
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