主張
再軍備と保健婦
pp.5
発行日 1952年5月10日
Published Date 1952/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200273
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先日一人の友人が「戰力だ,戰力でないなど,どうしてああ下らない議論をくりかえすんでしようね」と慨嘆しました。この友人は保健婦の身分の統一となると,口角泡をとばして悲憤慷慨する人なんです。憲法を読んだことのない婦人が8割に及んだという朝日新聞の世論調査と思い合せて,いろいろと考えさせられました眼高手低というととばがあつて,昔から,あまり高遠な理想に醉つて,眼前の現実を忘れることが戒められています現に星をみつめて歩いて溝におつこちた哲学者はいつまでも笑いの種になつています。
しかし再軍備の問題は決して星の世界のことではありません。東京六区の補選で,棄権が半数を越えた事実でもわかるように,たしかに政治は現在,民衆の生活から遊離しているようです。遊離しているくせに,政治の決定したことは,すぐ翌日の私たちの台所にひびくところが情けないところです。昨今の国会での愚論,暴論,妄論の展開に国民は呆れ顏ですけれども,実はその猿芝居の中で,私たちの明日の運命,そして,私たちの子どもの生涯の運命を決定ずけるような断が下されようとしていることを忘れるわけには参りません。私の申上げたいととは,私たちの顏にできた面チヨウと同じように,再軍備は切実で身近かな問題であること,明日デパートへ行つて買うシュミーズの選択と同じように今考えねばならない問題だということです。
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