ルポルタージュ
東京都中央保健所を訪ねて
鹿島 健作
pp.42-52
発行日 1951年11月10日
Published Date 1951/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200179
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2日續きの秋雨が,しとしとと降り續いていた。妙に肌寒い午前のことで,吐く息の白さが,かすかながらも眼にとまるような感じであつた。雨に洗われて,冴え冴えとした光澤を溜めている石疊を踏んで,正面玄關からはいつて行くと,右手のほうに伸びている仄暗い廊下の一隅で,はなやかな色彩を浮べた1群の女たちが,何やら高聲で話し合いながら寄り集まつていろのがいきなり眼について來た。赤や青のどきつい原色に彩られた派手な洋装や,抜巧のゆたかな化粧の跡などで,一見して,それが銀座界隈のキャバレーに働らいているダンサー達らしいということがわかるのだつた。集團檢診だな,と思いながら,それとなく彼女達の樣子を眺めていると,その隙に,いち早く同行のIさんが連絡をつけてくれたらしく,保健婦室の大きな扉が開いて婦長の平井雅惠さんが,ご自身でぢきぢきに迎えに出て來てくれた。
「さあ,どうぞ,こちらへ……」
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