余白のつぶやき・21
泣けとごとくに
べっしょ ちえこ
pp.469
発行日 1981年4月1日
Published Date 1981/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922773
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ボードレエルはくりかえして旅を歌ったけれど、そのほとんどは旅そのものを歌ったのでなく、旅への憧憬や予測を歌ったものであった。名高い作品『旅への誘い』に出てくる理想郷はオランダだそうだが、それも現実のオランダではなく、オランダ絵画から想を得て書いたものだと言われている。
芸術表現にどうしてもつきまとうこうした虚構性、あるいは人工性については,もともと自然そのものに美が内在するのでなく、そこに人間の心が加わるから美となる、つまり美とはそもそも人工のものなのだ,という説があった。そうとすると、一幅の風景は、見る人間のそれぞれの照りかえしであり、であればそれは、あるかなしかの物の影にすぎないということになってくる。
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